農の世界~作物を育てる・誕生の喜び~

いのちの誕生を前に私たちはどのような感情を抱く

突然ですが、 みなさんは「播種(はしゅ)」という言葉。聞いたこと、ありますかお恥ずかしながら、私は農の世界に携わるようになって初めて聞きました。

いわゆる種まき!!です。

“播(ハ・ハン・バン・播く(まく)・播く(しく))”とは、広く伝える/まく/種をまくなどの意味をもつ漢字。そこに“種”を合わせて、「播種(はしゅ)」という言葉が生まれたようです。語源は定かではないですが、(ヒトが)「手で田畑にタネをまく」姿から創られた“播”という漢字に“種”を組み合わせた表現のようです。

筆者が住む場所では、日常会話の中で普通に飛び交っている言葉ですが、みなさんの住む場所ではいかがでしょうか。

外の世界で出会う瞬間

少なくとも一度や二度。失敗した・成功した関係なく、野菜や花など、何かしらの作物を育てたことがある、または身近な方が育てているのを見たことがあるのではないかと思います。そのような“作物を育てるときの喜び”って、一体どこに感じるでしょうか。

もちろん感じ方は人それぞれだと思いますが、私自身あけぼの大豆の栽培に携わるようになって、一番心が高揚した瞬間が「種が発芽した時」でした。それは野菜も同様で、これまでは苗を買って、プランターや畑に植え替えて栽培していたのですが、種から作物を育ててみて、自分の手で植えた種が“外の世界に顔を出してくれた姿を見たとき”の嬉しさは毎回感動。それまでは、収穫するときがやっぱり嬉しい!!なんて当たり前のように思っていたのですが、その常識が覆されてしまうほどでした。

人に例えるならば、“お母さんのお腹の中で大切に温められてきた命が、外の世界に誕生するような感覚”でしょうか。命が生まれる瞬間は、何事にも代えがたい尊いもの。もちろん、人間と作物が同じという訳ではありませんが“誕生”という物語の中には、何か通ずるものがあるのではないかと感じるようになりました。

微妙な感情の違い

 では、なぜ自身の感じ方が変わったのか。一連の作業工程を踏まえて考えてみると、「種で植えたモノ」と「苗で植えたモノ」とでは、“思い入れ”の違いがあるのではないかと体感しています。種から植えて、芽が出た瞬間を見ている方がやはり愛着が沸くと言いますか…。自分の手で収穫して食べられる喜びは変わらないのですが、苗から育てたモノとでは、少し違う感情がある気がします。

…とそんなことを呟いていると、「タネから育てている方がたくさん出来るしね!!」「近所の方にもお裾分けできる」「ゼロから成長する過程を見るのが楽しい」等、意外にも共感してくれる方がたくさんいました。都会に住んでいたり、日常的に土と触れ合っていなかったりすると種からの栽培は敷居が高いと思われがちですが、意外にもそんなことはなく誰でも簡単にそして、安価に栽培することが出来ます。必要なことは、ほんの少しの温かい愛情とやってみようという気持ちのみ。もちろんプランター栽培でも種から育てることは出来ますので、お試しに自分の好きな野菜をタネから栽培してみると新たな発見があり面白いかもしれませんね。

「あけぼの大豆」播種を迎えました!

 さて、前回の記事で“極(ごく)晩成品種”と紹介させていただいた“あけぼの大豆”。通常の大豆(枝豆)より、二か月ほど収穫期が遅いのですが、播種期は一般の大豆とそれほど変わらず、梅雨を迎えた初夏のころに行われます。町内では昔から、“栗の花が咲くころ種をまく”なんて伝えられており、毎年少しずつ変わる自然現象と向き合いタイミングを見計らいながら播種作業が行われていきます。梅雨の時期の種まきは天候に左右されやすく、段取りを組むのが本当に難しい。まさに“天気予報とにらめっこ”な毎日です。

また、同じ町内での“種まき”と言っても、標高差によりその適期は少しずつ異なり、6月半ばころより標高の高いところから作業が始まっていきます。月末から7月上旬にかけて標高の低いところでも作業が行われ、新たな命の誕生を楽しみに待ちます。ちょうど各所で種まきの時期を終え、安堵。そして、あっという間に誕生してくれる大豆たちの「発芽」の喜びを噛みしめている最中です。(今年は、例年以上の雨量に悩まされてはいますが…)

しかし発芽を喜ぶのも束の間。ぐんぐんと成長する雑草たちとの闘いがいよいよ始まります。農に携わるようになって、最初に受けた洗礼が“雑草の生命力”でした。そんな時に、「“雑草は強いぞ~”負けるな!!」と叱咤激励されたことをよく思い出します。

…が、その一方で少しだけ、虫や生き物たちの視点に目を向けてみると、「草むら」は彼らの住処でもある。そんな住処を一気に奪ってしまわぬように。様子をみながら作業を行ったりもします。作物に向き合っていると、本当に多くの発見と学びの日々で、奥が深い。そんなことをまじまじと体感しています。

「必ず来る幸せ」

少し話は変わりますが、大豆の花には、「親睦」「必ず来る幸せ」「可能性は無限大」といった意味の花言葉がつけられています。莢(さや)の中に大豆の実がなかよく並んで入っていることから「親睦」という花言葉がつけられた様子。また、節分行事として豆まきがあるように、大豆には昔から病気や邪気を払う効果があるとされてきました。節分に年の数だけ炒り大豆を食べることで、「今年も一年健康で過ごし“幸せ”がやってきますように」そんな願いが込められているようです。栽培をした上で、改めて花言葉の意味に触れてみるとなんだか胸を打つものがありました。

あけぼの大豆の花

 少しずつ変わる社会情勢やライフワークの見直しがされている昨今。私たちが感じる“本当の幸せ”とは一体どのようなものでしょうか。たとえ、置かれた場所が異なるとしても、目の前のことにしっかりと向き合っていると不思議とその先にある“何か”が見えてくるような気がしています。一つひとつの出来事を通して体得できる機会を大切にかみ砕いていきたいものです。

先日、あけぼの大豆の種まきの様子をテレビ山梨さんが取材に入ってくださり、夕方のニュースで取り上げていただきました。少しずつ少しずつ。歩みを止めなければ、花が咲く。

あけぼの大豆について詳しくはコチラのあけぼの大豆ブランドサイトをご覧ください。

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