【農の世界】~おいしいを味わう~

「枝豆の収穫」と聞くと、いつ頃を想像されますか

“片手にビール、つまみに枝豆”。
そのような光景を頭に思い浮かべると「夏!!」と思うのが一般的ですよね。

ところが、筆者が携わっている枝豆の収穫期は10月。
そう、“秋味!!”のビールを飲むようになる頃です。
食事をする前に、お酒のお供としてついつい手が伸びてしまう。
あるネットの調べによると、おつまみランキング一位に輝く実績を持つ枝豆。
一度食べると手が止まらない、味ですね。

ところで、枝豆ってどのような生育過程を過ごした上で我々の食卓に並ぶか、ご存じですか。
結論から言うと、“枝豆”は“大豆”の未成熟のもの。
よって、「枝豆の種は大豆の種と同じもの」ということになります。

大豆のおはなし

もともと大豆は、紀元前2000年以前に中国から導入されたとされるもので、水稲ともに弥生時代頃から栽培されてきた長寿者。戦(いくさ)に出かける侍や農民たちの栄養食・保存食としても大豆製品は欠かせなかったとか。仏教の教えの根底にあった「殺生禁止」の風潮が強まると、肉や魚に変わるたんぱく源として大豆を食べるようになったようで。時代とともにじわじわと加工技術も発達し、お味噌・醤油・豆腐・納豆・きな粉・おから・ゆば等様々な加工品が作られ、今では私たちの食生活になくてはならないものになってきました。

読んでくださっているみなさんも、“我が家のキッチン”を思い返してみてください。「大豆製品が全くない」なんてご家庭はあまりないのではないかと思います。

お恥ずかしながら、私は生育過程含め、大豆のもつ歴史や深みをここ数年で初めて学んでおります。スーパーで買い物をする時、食卓に並べて食べる時。大概の人はそれらの背景にあるストーリーなどあまり考えないものですよね。

「枝豆ってどのように育っていくのだろう…」
当たり前のように私もそんなこと考えたことがありませんでした。
では、なぜ興味を持ったのか。
それはやはり、自分の手で作物に触れるようになったからです。

枝豆になるまで

以前の記事で、極晩成品種であると紹介させていただいたあけぼの大豆。通常の枝豆・大豆の収穫に比べると畑でゆっくりと成長していく分、収穫期も遅く、大粒で豊かな食味を持つことが特徴の一つです。

6月下旬~7月上旬頃に播種をした大豆の種。
発芽して、子葉・本葉が付き始め、真夏の暑い時期に可愛らしい紫色の花を咲かせます。花をつけ眺めたのも束の間。ギラギラな太陽の下、伸びてくる雑草と戦っているとあっという間に花はしぼみ、ちいさな小さなさやを付け始めています。サヤがついてから一か月半ほど。毎日少しずつ成長し、ぷっくりと膨らんだ大人の莢になり、農家さんの手により収穫されていきます。

太陽の光を浴び、恵みの雨から水分や栄養を摂り、たくましくなっていく過程の中には、様々な試練が潜んでいます。毎年播種後に訪れる梅雨の影響。近年の自然現象の変異により悩まされる長雨や異常なほどの猛暑日、台風による影響…。

播種の頃に雨が続くと、種自体が土の中で腐ってしまい、“発芽の喜び”すら味わうことが出来ません。本葉が付いた頃には、土の上では栄養の奪い合い。雑草という天敵とも戦わなければなりません。背丈も大きくなり、土の中で根付き根粒菌がつき始めた頃に日照りばかりが続くと、地上では喉がカラカラの状態。青々と茂っていた葉っぱがひっくり返り、白っぽくなってきたら黄色信号!どうにかして水路を確保し、早急に水分補給をさせてあげる必要も出てきます。

そんな真夏を乗り切り、秋の気配を感じる頃。大豆の未成熟の状態として、みどり鮮やかな“枝豆のフォルム”を完成させ収穫の時期を迎えていきます。

一粒のおいしさ

華やかでなければ、豪快さもない。

食卓のメインには程遠いけれど、継続的に手が伸びていく。
トップを走る者の後ろには、優秀な二番手・三番手がいるように。食事のメニューを選ぶ際にも、そんなポジションとなる食材が必ずあると思います。みなさんはどのような食材を思い浮かべるでしょう。

「食卓のお皿に枝豆が並んだとき。その一粒を味わいながら噛みしめて食べることってありますか?」
正直、そんなにないのではないかと思います。

しかし、そのような背景にある物語をふと思い浮かべながら、食していくとまた違った想いが味わえるのではないでしょうか。“あけぼの大豆の枝豆”は、まさにそんな一粒の美味しさをじっくりと味わっていただきたい逸品。大豆は、「豆類」に分類されますが、「野菜類」に分類される枝豆。そんな生の枝豆が市場に出回るのは10月中旬から下旬にかけてのたった二週間ほど。いわゆる旬モノになるのです。


きっとどんな作物も同じ。農家さんはもちろんのこと、携わっている関係者の方々の努力と愛情が加わり、市場や店頭に。そして手に取ってくださる方がいて我々の食卓に並んでいきます。作物のもつ文化や歴史、栽培している方々の想いに触れることで、食に対しての感じ方が変わってくることもあると思います。自然のチカラに逆らうことはできないけれど、農作業を通してたくさんの方が目の前の畑、また自然現象に向き合い、今も日本中の至るとこで農家さんは土の上に立っていることでしょう。

日常的には難しくとも、旬のモノを味わう喜びを体感し、豊かな食卓の時間と美味しい笑顔の連鎖、弾む会話の時間を紡いでいきたいものです。

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