コロナ禍で取得されない有給休暇取得の問題
メディアに見過ごされがちな消費者マインド
Beforeコロナでは当たり前だった通勤/通学、交通機関での移動、飲食店や旅行での休日の過ごし方。当然と思っていたことができなくなると不自由さや不安を感じるもので、サービスを提供する企業にとって、変化する消費者マインドを把握しないことにはビジネスの方向性も見えないところです。
New Normalへの対応方法に明確な道筋が見えない今、メディアで取り上げられるのは、テレワークやECサイトの需要ネタ等、どうしても目先の打ち手が話題にされる傾向が高くなっています。
目に見える需要があるからと目先の需要に手を出すことも必要ですが、何をするにも把握しないといけないのは消費者マインドです。今、消費者マインドにどんな変化があるのか、従業員のマインドの変化の実態を企業はどのように捉えていくべきか。オンオフの切替えが難しい今、消費者であり、従業員でもある視点で様々な課題も少しづつ増え始めています。
オンオフの切替えの難しさとメンタルへの影響
コロナ禍で企業の課題となっていることの一つに有給休暇取得率の低下があります。
2019年から開始された年次有給休暇の取得義務化。未消化の場合、企業にペナルティが課されるため、各社で様々な取組みが行われていますが、その取得推進が企業の人事部にとっては抱える課題の一つでした。働き方改革については、時短勤務、残業時間削減やフレックス制度の実施など、目に見える数値目標をKPIとしてきた一方で、有給休暇の取得促進だけは成功している実感がないという実態が調査結果から浮き彫りになりました。
「会社や部署ごとに有休取得推進を実施しているが、従業員がしっかり休んだ上で生産性向上に繋がっているのか?が分からない」。従業員の具体的な休み方まで把握するべきではないと考える人事・総務担当者が多い中では、取組みが上手く行っている実感を感じにくいというものです。
休日デザイン研究所が2020年5月に行なった調査結果からも、コロナ禍においては、在宅勤務・テレワークの日常において「オンとオフの切替えが難しい」と感じる人が多い傾向にありました。また、その頃から「リモート鬱」と言われる直接のコミュニケーション不足によるメンタルへの影響が徐々に社会に広がり、健康経営を考える企業にとっても軽視できない問題になり始めました。
プレゼンティーズムとアブセンティーズム
従業員視点でコロナにどのように向き合うか。欧米の人事面においては、プレゼンティーズム及びアブセンティーズムと健康経営の考え方が深く関係しています。
- プレゼンティーズム:「出勤しているにも関わらず、心身の健康上の問題(鼻づまりで頭がボーッとして仕事に集中できなかったり、メンタル面の不調から思うように行動できなかったり、発熱、二日酔い、寝不足など不調な状態)が作用して、パフォーマンスが上がらない状態」です。
- アブセンティーズム:心身の体調不良が原因による遅刻や早退、就労が困難な欠勤や休職など、業務自体が行えない状態」です。
プレゼンティーズムの方がアブセンテーズムよりも生産性に深く関わっていることから、従業員がコロナ禍の休日をどのように過ごしているのか?という観点から導かれる今後の生産性向上のあり方については、先が見えないコロナとの付き合い方に大きな影響を及ぼすものと考えられます。
有給取得が遠くに感じる生活様式
では、コロナかの有給休暇取得において、企業の従業員のマインドチェンジしたことは何か。
例えば、子供が幼稚園・保育園、小学校、中学校までの方にとっては年間行事が軒並み中止・延期になりました。Beforeコロナでは運動会、学芸会などの発表会は多くの保護者が参集していましたが、3密を避けるため、それらの行事のために取得していた有給休暇の機会がなくなったことが原因の一つです。年間予定として決まっていた休みがなくなったこと。それは、行事における経験則から個々人で想定される休日の時間の過ごし方がリセットされることでもあります。「運動会は朝から昼過ぎまで、子供の出場競技は何時頃、その後は帰宅してビールでくつろぐ…」といった、経験則に基づく時間の過ごし方があるから「今日は前回より楽しかった、前回とは違う1日だった」と感じたりするものです。つまり、休むことで満たされていたマインドが存在していたBeofreコロナですが、今やそれが存在しないため満たされない現実。
これに加えて、在宅勤務の推奨によりオンオフの切替えが難しい今、休日の位置付けが大きく変わったこともあります。
Beforeコロナでは平日に働く、休日に休むというリズムが存在していましたが、今や平日でも2時間ほど病院、美容院に行って、それ以外の時間帯で仕事をする方がいたり、基本的に平日も土日の休日も喫茶店で仕事をするルーティンができているため、これまでのような平日と休日の明確な違いがなくなっている現象があります。時間と場所の使い方が大きく変わることで休日の過ごし方・時間の使い方が変わり、有給休暇の取得を意識することがなくなったというケースもあります。
有給取得率の向上と生産性の関係性
休日デザイン研究所の休み方と5月病に起因する調査では、これまで「新入社員の仕事に対する意欲とGWの過ごし方」について、学生時代の充実度を基に実施した結果、その因果関係が大きく存在していることが明確になりました。また、弊社の別調査でコロナ禍の一般社員におけるマインド変化においては、「休みにおけるモチベーション自体を創り出せない」「休みに何をしていいのか分からない」という回答結果が多く抽出されました。「モチベーションが創り出せない」という課題は、上記の有給休暇取得と学校行事の関係性からも伺えます。
企業にとって従業員が「いかにしっかり休んだ実感を持つか」ということは、生産性に関わる問題でもあるため、その要因の把握をすることは大切なことです。
休むことで満たされたマインドがあったBeforeコロナですが、休んでも以前のようにモチベーションが創り出せず休めていない状態。規制下の連休に観光地やライブハウス、小劇場に行っても、あまりスッキリしない、楽しめない。行くこと自体も腰が重くなる。変わってしまった自分自身の休みへの向き合い方を感じながら、ただ、何となくBeforeコロナの頃の休み方に執着しようとしてしまう…。
これまでなら、たまにはライブに行って気分を変えてみようと行動していたけれど、元々、ホスピタリティの低いライブハウスや小劇場。コロナ禍の今、マスクをしてまでホスピタリティの悪いライブハウスや小劇場に行くかというと、元来のサービスイメージもあって、衛生面やホスピタリティが気になっていた人にとって敢えて行くことに対して腰が重くなるのは必然なのかもしれません。だからと言って、オンライン配信で解決するかと言えば興が削がれる、そんなジレンマがあり、休みにおける消費者マインドは複雑化してきています。
従業員マインドを把握すること大切さ
Beforeコロナで実施してきた「ストレステスト」や「産業医との面談」。この取組み自体は大切ですが、あくまでもBeforeコロナでの話。冒頭にも記載の通り、当然と思っていたことができなくなると不自由さ・不安を感じるのが人の性というものです。
従業員が有給取得しないのではなく、取得することができない。取得する目的や理由がなくなる中で、既に義務化された有給休暇取得を推進していくためには、従業員の休み方を今一度、棚卸しし、従業員一律での声がけでは取得に至らない理由をしっかり把握した上で、企業ごとにマッチした打ち手を考えていく必要があります。また、消費者マインドにおいても、これまでの休日の過ごし方とは微妙に且つ大きく違う今、これまでのような消費行動ではないことを認識した上で、集客を含むビジネスのあり方を考えていくことが喫緊の課題となっています。
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